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  1. 法と日常の交差点:「モームリ」事件から士業独占を考える
ブログ
2026.06.28

法と日常の交差点:「モームリ」事件から士業独占を考える

法と日常の交差点:「モームリ」事件から士業独占を考える

「モームリ」の提携弁護士2人は、なぜ起訴されたのか?

 2026年2月24日、退職代行サービス「モームリ」の社長夫婦と提携先の弁護士2人が、弁護士法違反の罪で起訴されました。マスメディアの報道によれば、社長夫婦が有償で弁護士に依頼者を紹介し、2人の弁護士は、その事件を受任したとされます。
 そもそも「退職代行」とは、会社を辞めようとする従業員に代わって、退職の意思を会社側に伝えるサービスです。しかし、退職手続にともなう残業代や退職金の支払請求など、各種の法律問題を処理した場合、弁護士(弁護士法人)以外の法律事務を禁じた弁護士法72条前段に違反します(いわゆる「非弁行為」です)。

弁護士法の非弁行為と非弁提携

 こうした非弁行為は、弁護士法77条3号で「2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」となります。しかし、モームリの担当者が直接に法律事件を取り扱わなくても、弁護士をあっせんして紹介料を受け取れば、同法72条後段の「周旋」行為となるため、やはり同法77条3号で処罰されるわけです。また、その事情を知って協力した弁護士も、同法27条の「非弁提携」として、同法77条1号で処罰されます。この場合、事件の依頼人が紹介料を支払うか、それとも、受任する側の弁護士が支払うかは問題となりません。「モームリ」が何らかの報酬を得ていれば、違法な「周旋」行為に当たるわけです。

弁護士法(昭和24年法律第205号)
 第27条(非弁護士との提携の禁止) 弁護士は、第72条乃至第74条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
 第77条(非弁護士との提携等の罪) 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。
 一 第27条(第30条の21において準用する場合を含む。)の規定に違反した者 …(省略)…
 三 第72条の規定に違反した者 …(以下省略)…

士業独占とは何なのか?

 モームリ事件では、弁護士による法律事務の独占が前提となっています。いわゆる「士業」と呼ばれる職業は、国家資格のある人間だけが従事できるため、士業独占とか業務独占などと呼ばれます。また、士業(しぎょう、さむらい業)とは、弁護士や税理士のように、それぞれの名称に「士」が入っている職業です。法律事務であれば弁護士、税務関係では税理士があり、司法書士や弁理士、公認会計士や社会保険労務士も思い浮かぶでしょう。

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さまざまな「士業」と「師業」
 そのほかにも、土地家屋調査士、不動産鑑定士、中小企業診断士、宅地建物取引士(宅建士)、マンション管理士、賃貸不動産経営管理士、建築士、測量士などの士業が存在します。おおむね、不動産事業や会計・労務などの分野に集中しています。また、医療・福祉関係では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、臨床工学技士、介護福祉士、精神保健福祉士などがありますが、医師や看護師、薬剤師などは「師業」になるでしょうか?

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 これらの士業を定めた法律では、無資格者がこれらの業務をおこなった場合、各種の罰則が適用されます。弁護士法72条以外にも、税理士法52条、司法書士法73条、行政書士法19条、社会保険労務士法27条などがあります。また、いわゆる「名義貸し」を処罰する規定として、税理士法37条の2、弁理士法31条の3、社会保険労務士法23条の2などがあります(なお、弁護士法27条は「名義貸し」も含んでいます)。特に社会保険労務士法では、弁護士法と同じく、非社会保険労務士との提携を禁止しており、他業者からあっせんを受けた場合も処罰されます(社会保険労務士法23条の2、32条の2第3号)。

税理士法(昭和26年法律第237号)
 第52条(税理士業務の制限) 税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
 第59条(罰則) 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。…(省略)…
 四 第52条の規定に違反したとき。…(以下省略)…

司法書士法(昭和25年法律第197号)
 第73条(非司法書士等の取締り) 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。…(以下省略)…
 同法78条(罰則) 第73条第1項の規定に違反した者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。…(以下省略)…

隣接士業とのせめぎ合い

 なるほど、上述した士業独占は、国家資格や免許制度を設けて、無資格者の違法な業務により損なわれる国民の利益を守ろうとしています。しかし、弁護士の場合、一般に「法律事務」というだけでは、あまりに漠然としており、これを弁護士だけが取り扱うとするのは不都合でしょう。たとえば「本人訴訟」のように、当事者が自分の法律事務をおこなうのであれば、まったく問題ありません。また、他人の法律事務を取り扱う職種にも、多種多様なものがあるため、どこで切り分けるかが問題となります。
 たとえば、税理士が、税務訴訟で補佐人として出廷したり(税理士法2条の2第1項)、一定の条件下で、司法書士が法律相談や訴訟代理をしたりすることは許されています(司法書士法3条)。すなわち、ここでいう「独占」は、完全な独占でなく、かりに法律事務であっても、いわゆる「事件性のない」行政文書の作成などは、弁護士だけでなく、行政書士でもできるわけです。税理士業務であれば、納税者本人が申告できるのはもちろん、記帳代行やデータ入力であれば、税理士資格のない補助者であっても可能です。

隣接士業の相関図 ―― それぞれの士業は、どのような関係になっているでしょうか。

★日本弁護士連合会・弁護士業務改革委員会・21世紀の弁護士像研究プロジェクトチーム編著『弁護士改革論―これからの弁護士と事務所経営』(2008年、ぎょうせい)157頁より抜粋しました。

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 2026年6月6日(土)付けの読売新聞朝刊によれば、同月5日、東京地裁は、退職代行サービス「モームリ」から依頼人のあっせんを受けた弁護士に対して、懲役1年6月(執行猶予3年)、弁護士法人に対して、罰金150万円を言い渡したとされます。

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〈参考文献〉
 大野正男「弁護士の職業的苦悩―弁護士活動に関する二つの判決にふれて」判タ269号(1972年)2頁以下、日本弁護士連合会・弁護士業務改革委員会・21世紀の弁護士像研究プロジェクトチーム編著『弁護士改革論―これからの弁護士と事務所経営』(2008年、ぎょうせい)148頁以下、小寺史郎「隣接士業の非弁行為の現状」自由と正義60巻11号(2009年)37頁以下、増田嘉一郎「弁護士倫理―業務改革と非弁提携を巡る諸問題―」明治大学法科大学院論集12号(2017年)203頁以下など。

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