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2026.07.29

【コラム:法と日常の交差点】非弁行為をめぐる社会の変化

【コラム:法と日常の交差点】非弁行為をめぐる社会の変化

 ある文献によれば、弁護士による業務独占は、一度危機に瀕したことがありました。1990年代半ば、司法試験の合格者数増加をめぐって紛糾した際、当時の政府が重点検討課題として「弁護士法72条の見直し」を掲げたからです。法改正をおそれた日弁連の執行部は、大幅な弁護士増員を受け入れたそうです(小林正啓『こんな日弁連に誰がした?』(2010年、平凡社新書)104頁~106頁)。士業独占と弁護士自治による城郭の一角が脅かされる、まさに「喉元に刃を突き付けられた」時代があったわけです。

 しかし、その後の司法制度改革によって、大幅な合格者増員が続いた結果、弁護士業界は、大きな変革の波に洗われることになりました。下記のグラフは、1950年から2024年までの弁護士総数の推移を示しています。当初は5,800人程度であったものが、2024年には45,000人を超えました。当初の10倍の人数になる日も近いでしょう。

★日本弁護士連合会編著『弁護士白書2024年版』(2025年、日本弁護士連合会)23頁より抜粋しました。

法律業務における規制緩和

 さて、法律によって士業独占を強制する以上、弁護士などの有資格者に許される行為と、一般人でも処理できる場合を区別する必要があります。弁護士法72条は、「その他一般の法律事件に関して…(省略)…その他の法律事務」の取り扱いを規制していますが、これだけでは範囲が広すぎるため、「報酬を得る目的で」かつ「業とする」場合だけを禁止しています。しかも、弁護士だけがおこないうる「法律事務」は、「事件性のある」場合に限られます(最決平成22・7・20刑集64巻5号793頁など)。憲法が認めた職業選択の自由や営業の自由を制限する以上、非弁行為として処罰する範囲を絞り込むのは当然でしょう。
 2001(平成13)年以降、各種の法律が改正されたことで、弁護士法72条による制限は、さらに緩和されました。たとえば、行政書士が報酬を得て官公署に提出する書類や契約書の作成等の代理業務が認められたほか、税理士法、司法書士法および弁理士法が改正された結果、一定の範囲で訴訟代理権や法廷での陳述権を与えられています。さらに、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」では、民間の認証事業者に対して、裁判外紛争解決手続を業とすることが認められました。

★AIを利用して法律事務を支援する各種サービスのパンフレットです。文献の検索・要約から関連する判例の抽出など、各社がさまざまな利点を強調しています。

士業独占が崩壊する日?

 最近では、生成AIやクラウド会計の普及にともない、業務独占の在り方を見直す機運が高まっています。たとえば、法律業務では、AIを用いた各種のインターネット・サービスが登場しました。かりに一般の事業者がAIを使って契約書等の作成・審査・管理業務を支援する場合、果たして弁護士法72条に違反するでしょうか。

 なるほど、悪質なサービス事業者から利用者を保護する一方、法律専門家の役割を重視するならば、違法な脱法行為を取り締まる必要があります。しかし、士業独占の範囲や非弁行為の処罰根拠が曖昧な状態では、新たな司法サービスの芽を摘み取ってしまいます。いわゆるリーガルテックの法規制にあっては、まず、これらの問題点を解消しなければなりません。そのうえで、どこまでが適法な行為に当たるかを明示すべきです。そもそも、特定の士業だけが業務を独占するという前提が正しいのか、過去の立法過程では、悪質な仲介事業者や事件屋を取り締まればよいという意見もありました。

AIによる司法支援サービスの将来

 ある企業が、法務省に「AIによる契約書のチェックは弁護法72条に違反しないか」と問い合わせたところ、「弁護士と弁護士法人が業務で補助的に使う場合であれば違反の可能性は少ない」という回答がありました。上述した非弁行為の規定は、一般的かつ抽象的に定められており、およそ「弁護士以外が、報酬をもらって法律業務をおこなうのは許されない」と読めてしまいますが、弁護士法72条違反になるのは、①報酬を得る目的があり、②法律案件であり、事件性(権利関係に関する争い)があること、さらに、③法律の専門知識に基づいて法律的見解を述べる場合に限られます。

★法務省の「AI等を用いた契約書等関連業務支援 サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(令和5年8月)」からの抜粋です。

 また、2023(令和5)年8月の法務省ガイドラインによれば、これらの要件を充たす場合であっても、①当該サービスを弁護士や弁護士法人に提供したり、弁護士自らが契約書をチェックして、適宜修正する形で当該サービスを利用したりするほか、②当該サービスを一般企業に提供する場合にも、企業の役員・従業員である弁護士が、①と同様の方法で利用するならば、非弁行為には当たりません(https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf)。つまり、弁護士が契約書をチェックする際の補助的ツールとして利用する限り、弁護士法72条に違反しないわけです。

法曹界に押し寄せる変革の波

 こうした指針によって弁護士の「聖域」は、かろうじて維持されたともいえます。ただし、法務省のガイドラインは、もっぱら契約書の作成・チェック・管理に係るサービスを想定したものであり、それ以外の司法支援サービスについては、なお不透明な状態です。しかも、IT化の流れは、法律に関係する業務でも着実に強くなるでしょう。

 実際、2026(令和8)年5月21日からは、民事裁判におけるIT化(フェーズ3)が始動するなど、「民事裁判手続のデジタル化」が本格化しています。また、刑事司法手続でも、各種令状の発布や執行なども含めて、従来の書類から電磁的記録へ電子化されました。今後、さらにリーガルテックの導入が加速するとき、すべての法律業務がAIに乗っ取られるわけでないとしても、弁護士の果たすべき使命や役割は、大きく変わらざるを得ないでしょう。

〈参考文献〉

 日本弁護士連合会・弁護士業務改革委員会・21世紀の弁護士像研究プロジェクトチーム編著『弁護士改革論―これからの弁護士と事務所経営』(2008年、ぎょうせい)148頁以下、遠山信一郎「弁護士法72条の事件性を巡る問題」自由と正義60巻11号(2009年)101頁以下、小林正啓『こんな日弁連に誰がした?』(2010年、平凡社新書)、秋山謙一郎『弁護士の格差』(2018年、朝日新書)、髙中正彦『弁護士法概説〔第5版〕』(2020年、三省堂)329頁以下、松尾剛行「リーガルテックと弁護士法72条―『法務省ガイドライン』を踏まえた鑑定等該当性についての検討―」一橋研究48巻3=4号(2024年)1頁以下、小林一郎「制度的沈黙の構造―非弁護士による弁護士の周旋規制を考える」NBL1310号(2026年)4頁以下など。

リーガルテックの功罪

 このコラムを書き終えてから、フリーの生成AIに法律業務の独占や、隣接士業との関係について質問してみました。大まかな回答は得られたものの、引用された条文が間違っていたり、法改正が反映されなかったり、かなりずさんな内容でした。AIの仕組みは、言語学的な意味を理解しないまま、ディープラーニング(深層学習)により確率論的に正しい組み合わせを選択するため、文献検索等には有用であっても、情報の信頼性の点では、かなり問題がありそうです。もちろん、法務特化型AIアシスタントであれば、適切な回答を導いたかもしれませんが、やはり、法律専門家による最終チェックが必要でしょう。これまで法律相談に来られた方の中には、こうした生成 AI の情報を鵜呑みにしている場合もあり、リーガルテックの功罪は半々というところでしょうか。

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