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2026.09.02

【コラム:法と日常の交差点】医師法17条の「医業」とは何か?(その1)

【コラム:法と日常の交差点】医師法17条の「医業」とは何か?(その1)

「ニセ医者」よる医療行為

 最近、医師を装ってがん治療をおこなったり、無資格者が看護師に点滴をさせたりするなどの事件が、相次いで報道されました(上記の新聞記事の見出しを参照)。医師免許がない者の診療行為は、法律上禁止されていますが、こうした事件が起きる背景には、現場の人手不足や法律上の「医業(医行為)」概念の曖昧さがあります。他方では、病理診断の専門医が少ないこともあり、診断支援型AIをどこまで利用できるかも議論されています。
 無資格者による診療行為は、患者の生命や健康を危険にさらすものです。また、AIに判断を委ねるのも、専門家としては自滅行為といわざるをえません。かりにニセ医者の行為を放置した場合、その上司や勤務先は法的責任を問われるほか、処罰の対象になる場合さえあります。今回のコラムでは、前回の「(法律分野における)士業独占」に続いて、医療分野の業務独占が抱える問題点について考えてみましょう。

医療における業務独占

 医療の分野では、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、助産師などの「師業」とは別に、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、臨床工学技士といった「士業」がみられます。そのほか、厚生労働省が所管するものだけでも、数十種類の国家資格があり、その多くが法律にもとづいています。そこでは、「師業」や「士業」の業務独占を認めており、前回のコラムで紹介した弁護士などの「士業」と同じです。
 医師や看護師などの医療従事者には、一定の国家資格が必要です。また、医師法17条・31条、歯科医師法17条・31条、保健師助産師看護師法29~32条・31条などは、無資格者の診療行為を厳しく規制しています。たとえば、無免許医業罪は、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又はこれらの併科となります。さらに、医師やこれと似た名称を使用していた場合は、その刑が加重されます(3年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金又はこれらの併科)。また、医師免許がないことを知って診療行為をさせたり、無資格者を雇用したりした医療施設の管理者は、無免許医業罪の共犯(刑法60条など)になる場合もあります。

医師法(昭和23年法律第201号)
 第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
 第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 一 第17条の規定に違反した者 …(省略)…
 2 前項第1号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、3年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

歯科医師法(昭和23年法律第202号)
 第17条 歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。
 第29条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 一 第17条の規定に違反した者 …(省略)…
 2 前項第1号の罪を犯した者が、歯科医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、3年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

医業独占の目的と特徴

 法律上、医師は「医療及び保険指導」、歯科医師は「歯科医療及び保険指導」、薬剤師は「調剤や医薬品の供給その他薬事衛生」を掌(つかさど)ることで、公衆衛生の向上や増進に寄与し、国民の健康な生活を確保することが任務とされます(医師法1条など参照)。また、医療の分野では、医師(歯科医師を含む)以外の医療従事者は、「医師の具体的な指示を受けて」診療の補助を行うことになっており(たとえば、臨床工学技士法37条など)、医師を中心として、各種の医療従事者がサポートする構造になります。
 なお、保健師助産師看護師法37条では、「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をし(、)その他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と明記されるなど(句読点を付けました)、ほとんどの法律で「医師(または歯科医師)の指示の下に」という限定を付けています。

他の士業独占との比較

 こうした構造は、法律・会計分野の業務独占とは根本的に異なります。すなわち、医師とそれ以外の医療従事者の関係は、チーム全体を医師(歯科医師)が統括する形になっており、法的責任の所在も含めて、対等な協働関係ではありません。また、医師を補助する医療専門職は、相互に重なり合うことなく、まさに「かけがえのない存在」として、各々の職能に応じた分業体制になっています。
 ところが、法律・会計の分野では、それぞれの専門職が独立して協働する形になります。かりにどれか一つが欠けた場合、相互に重なり合う部分では、他の専門職で補うことも可能です。また、他の士業との間で上下関係があるわけでなく、その意味では、他者の指導に従う法律上の義務もありません。そうした事情が相俟って、前々回のコラムで述べたように、「この法律(その他の法律)に別段の定めがある場合を除く」という文言が入っているわけです。

弁護士法(昭和24年法律第205号)
 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で …(省略)… 一般の法律事件に関して …(省略)… 法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。…(以下省略)…

 第77条(非弁護士との提携等の罪) 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。…(省略)…

 三 第72条の規定に違反した者 …(以下省略)…

無免許医業罪と弁護士法違反

 また、弁護士法72条が禁止した非弁行為は、「報酬を得る目的」で「業とする」場合だけが処罰されます。しかし、無免許医業罪は、「医業」すなわち「業として」診療行為をすれば成立します。さらに、それぞれの刑罰は、非弁行為が「2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」であり、無免許医業罪が「3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金」と重くなっています。このような違いは、何にもとづくのでしょうか。
 法律上「業として」という場合、報酬を得るかどうかを問わず、反復・継続すること、すなわち、繰り返しておこなう場合をいいます。したがって、1回限りの場合は除外されますが、たとえ無償でも繰り返そうとすれば、最初の1回でも無免許医業罪になるわけです。他方、非弁行為の場合、報酬の目的がなければ、「業として」いた場合も処罰されません。無償の法律事務であれば、処罰する必要がないからです。これに対して、無免許医業罪では、人の生命や健康を左右するおそれがあり、たとえ無償の行為であっても、くり返すような場合は放置できません。

医業独占が直面する課題

 医療の現場では、各種の専門知識をもった医療従事者が必要不可欠であって、どれか一つの業務でも停滞すれば、治療計画全体が立ちゆかなくなります。しかも、チーム全体を統括する医師とはいえ、各分野のエキスパートが欠けた場合、これをカバーするのは困難です。特に傷病の治療では、患者の生死に直結するリスクがあるため、医師の免許制にもとづく分業体制を揺るがすような変革は、将来も考えにくいでしょう。
 しかし、こうした業務独占は、医療の専門分化が進んだ現在、実態に即さないという指摘もあります。医療の在り方が変化するとき、医師と他の医療従事者との関係も変わってくるからです。そもそも、「医業とは何か」をめぐって曖昧な部分が残されており、いわゆるタトゥー裁判では、「医業」と「医行為」の範囲が争点になりました。最近では、医療用AIの導入も議論されており、診断支援型AIの位置づけが問われるなど、法律・会計分野の士業独占と似た状況にあります。

タトゥー裁判と医師法17条
 「医業」が前提とする「医行為」の理解をめぐって、有名なタトゥー裁判がありました。大阪府で入れ墨の彫り師が(医師免許はありません)、複数の顧客にタトゥーを入れたとして医師法違反の罪に問われました。第1審の大阪地裁は、タトゥーを入れる行為は「医行為」であるとして無免許医業罪(医師法17条違反)を認めました。しかし、控訴審の大阪高裁は、「医行為」に当たらないと判断しました。最終的には、最高裁が「社会通念に照らして、医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く、医行為には当たらない」として無罪になっています(最決令和2・9・16刑集74巻6号581頁)。

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