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  1. 【コラム:法と日常の交差点】アートメイクと美容施術 ― 医師法17条の「医業」とは何か?(その2)
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2026.09.30

【コラム:法と日常の交差点】アートメイクと美容施術 ― 医師法17条の「医業」とは何か?(その2)

【コラム:法と日常の交差点】アートメイクと美容施術 ― 医師法17条の「医業」とは何か?(その2)

【コラム:法と日常の交差点】医師法17条の「医業」とは何か?(その1)

「アートメイク」のネーミング

 アートメイクという言葉は、少なくとも手元の辞書には見当たりません(大辞林など)。しかし、インターネット上では、「人の皮膚に色素を注入して眉などを描く施術であって、タトゥーの一種」とされます(ウィキペディアなど)。また、アートメイクをめぐる皮膚トラブルを警告した国民生活センターは、「化粧をしなくても眉・唇等の色合いを美しく見せようとする施術」と説明しています。実際の施術内容については、下記の図を参照してください(AI作成)。

 もっとも、アートメイクという言葉は、日本独自のものであり、外国では、「パーマネント・メイク」とか、「コスメティック・タトゥー」と呼ばれています。なぜ「アートメイク」になったのでしょうか? かつては「眉タトゥー」、「唇タトゥー」と言われたそうです。ところが、「●●タトゥー」では、入れ墨(いれずみ)とイメージが重なるため、次第に「眉アート」という名称になり、それが一般化して「アートメイク」になったと推測できます。しかし、「アート」の言葉が入ったことで、かえって「バラの図柄」や「ドラゴンの文様」などを描いた入れ墨を連想してしまいます。

医療行為としての「タトゥー」

 アートメイクの施術は、果たして医療行為でしょうか? ここでは、前回のコラムで紹介したタトゥーと同じ問題が発生します。通常の入れ墨とアートメイクを比べてみれば、その技法は、特殊な針を使って皮膚に色素を注入する点で、まったく同じです。しかし、アートメイクは、「メイク(化粧)」であり、皮膚の色素不足や欠損を補う点では、治療目的による医療行為といえます。美容整形でも、容貌や容姿を美しくするために、二重まぶたや豊頬、豊胸、皮下脂肪の吸引、手術といった外科的処置をおこなうからです。他方、美容施術ないし美容術としては、それ以外の美顔、美髪、マニキュアなどが挙げられます。
 アートメイクや美容整形を施術できるのは、正規の資格を持った医療従事者だけです。厚生労働省医政局医事課長の「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて(通知)」では、医師免許を有しない者が、針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨(すみ)等の色素を入れて、眉毛やアイラインを描く行為は、「医行為に該当し、医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反する」と明言しています(医政医発0703第5号・令和5年7月3日)。

アートメイクによる健康被害を取り上げた新聞記事と国民生活センターの報道発表
(日本経済新聞オンライン2014年8月3日/国民生活センター2011年11月7日資料)

★2010〜2013年の4年間には、多数のエステ経営者らが、無資格者のアートメイクにより医師法違反で摘発されました。

「アートメイク」と「タトゥー」の違い?

 これらのアートメイクが、「美容目的やあざ・しみ・やけど等を目立ちづらくする目的で,色素を付着させた針で眉,アイライン,唇に色素を注入する施術」である限り、「美容整形の範疇としての医行為という判断が可能であ」って、およそ「医療関連性が全く認められない入れ墨(タトゥー)の施術とアートメイクを同一に論じることはできない」わけです(大阪高判平成30・11・14高刑集71巻3号1頁)。
 しかし、かりに「しみ取り」などが主要な目的であり、現に医師や看護師がおこなっているとしても、こうした事情だけでは、アートメイク全体を医療行為とみることはできません。単なる装飾の目的で、「バラの図柄」や「ドラゴンの文様」を彫り込むような場合、当然に「美容整形の概念に包摂しうる」とはいえないからです。

医行為(医業)とは何か?

 そもそも、法律上の「医業」は、反復・継続する意思で「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)」とされてきました。これは、厚生労働省医政局長の「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」にもとづいています(医政発第0726005号、平成17年7月26日)。学説においても、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害が生ずるおそれのある行為」と説明されています。
 しかし、タトゥー裁判では、その控訴審判決が、当該行為の「医療関連性」を要求して、それを欠いた入れ墨の施術は、医師法17条の医業に当たらないとしました(前掲大阪高判平成30・11・14)。上告審である最高裁も、医業および医行為を、①「医療及び保険指導」に属する行為であって、②「医師が行なうのでなければ保健衛生上の危害が生じるおそれのある行為」と解しています(最決令和2・9・16刑集74巻6号581頁)。

医療関連性とは何か?

 その意味で、上述した厚生労働省の解釈指針は、②の側面を捉えたにすぎません。すなわち、①の「人の疾病の治療を目的とし医学の専門知識を基礎とする経験と技能とを用いて、診断、薬剤の処方又は外科的手術を行うことを内容とするものを指称し、等しく人の疾病の治療を目的とする」という側面が欠けていたわけです(なお、大阪高判昭和28・5・21LEX/DB参照)。現在では、①の医療関連性と、②の保健衛生上の危害の両面を合わせて、医師法17条の「医行為」とみています。
 ところが、②の保健衛生上の危害だけでなく、①の医療関連性を要求するとき、永久脱毛などの美容施術やアートメイクは、「医行為」でなくなってしまいます。外傷や腫瘍による欠損を修復する形成外科はともかく、それ以外の美容施術には、①の側面を認めがたい場合もあるでしょう。なるほど、純然たる美容整形やアートメイクであっても、「人の情緒的な劣等感や不満を解消する」という要素は認められます(前掲大阪高判平成30・11・14)。精神科の診療を引き合いに出すまでもなく、患者の心の安定を図ることも、広い意味の医行為に含まれるからです。

美容整形とタトゥー行為

 しかし、単なる装飾目的のアートメイクは、入れ墨とまったく同じ技法であるため、これらについても「医療関連性」を肯定するならば、タトゥー行為も「医行為」になってしまいます。実際、タトゥー行為だけを「医行為」から除外するのは、首尾一貫しないという批判があります。他方、上述した「医療関連性」を狭く解釈するならば、現場では医師らがおこなっていますが、「医療及び保険指導」を目的とする「医行為」に当たらない美容整形も少なくないでしょう。
 そもそも、「医療(関連性)とは何か」を深掘りするならば、「人の疾病の治療を目的とする」という説明は、ある種のトートロジー(循環論)に陥ってしまいます。すなわち、医療関連性でいう「医療」が、医師の行うべき行為(=医行為)の言い換えにすぎず、再度、医行為に求められる「医療関連性と何か」の疑問に立ち戻ってしまうからです。

刑罰法規の明確性と国民の予測可能性

 従来、「医業」や「医行為」の定義が曖昧であったため、その範囲が不当に拡張された結果、タトゥー行為にも、医師法17条が適用されました。なるほど、かつて入れ墨は、刑罰の一種であり、「黥刑(鯨刑、げいけい)」とか「墨刑(ぼっけい)」と呼ばれました。そのため、前科者(犯罪歴のある者)の目印とされるなど(いわゆる「入れ墨者」です)、歴史的・文化的には、アンダーグラウンドの世界を連想させます。
 こうした背景も踏まえて、タトゥー裁判の最高裁決定は、社会通念に照らして医行為から除外しましたが、「社会通念」とはいったい何でしょうか? かりに社会通念や一般人の常識によって「医療関連性」が決まるとしたら、これを客観的基準というのは難しいでしょう。学説の中には、刑罰法規としての明確性が乏しく、国民の(どの行為が処罰されるかの)予測可能性を奪うという指摘さえあります。
 そもそも、医師法は「医療及び保健指導を掌ること」を手段として、「国民の健康な生活を確保する」ことを目的としており(同法1条)、不衛生な環境下での感染リスクなど、「保健衛生上危害が生ずるおそれのある」場合、有資格者以外は施術できないとしたわけです。また、アートメイクや脱毛ケアを規制するのと比較して、タトゥー行為を放任するのは、バランスを失していないでしょうか(後述する下線部の2事例を比べてみましょう)。

少し変わった医師を主人公にしたマンガ!

 ★写真左は、手塚治虫『BLACK JACK①~』(1993年~、秋田書店)です。無免許医を主人公にした最も有名なマンガは、手塚治虫のブラックジャックでしょう。天才的外科医である主人公(ブラックジャック)は、神業に等しいテクニックで患者を救います。しかし、なお治療できない難病や心の病に直面するなど、医師を取り巻くヒューマンドラマになっています。なぜ無免許医という設定なのでしょうか? 実際の医療には多くの法規制があるため、作者である手塚氏は、極端な治療法や法外な報酬など、現実にはありえない極限の世界を描きたかったのかもしれません。

 ★写真中央は、佐藤秀峰『ブラックジャックによろしく(1)~』(2002年~、講談社)です。一人の研修医(斉藤英二郎)から見た、臨床研修制度や健康保険制度の矛盾、医局内の人間模様や患者・家族との葛藤まで、日本の大学病院や医療現場の現状を描いています。本作品のタイトルは、手塚治虫『ブラック・ジャック』に由来しますが、その内容はまったく関係ありません。

 ★写真右は、手塚治虫(原作)、藤澤勇希(脚本)、SANORIN(漫画)『Dr. キリコ 白い死神①~』(2016年~、秋田書店)です。手塚治虫『ブラック・ジャック』のスピンオフ作品であり、主人公のライバル的存在として、安楽死を専門とするドクター・キリコを描いた物語です。

医師法違反の具体例

 最後に、無資格診療の具体例をみておきましょう。たとえば、患者に対して聴診や触診、指圧等をおこない、交換神経等を刺激してその興奮状態を調整するなど、生理上危険のある程度に達していた場合(最判昭和30・5・24刑集9巻7号1093頁)、あざやシミを目立たなくすると称して、麻酔剤を注射ないし塗布したうえ、針や注射器を用いて色素を注入するなどした場合(東京地判平成2・3・9判時1370号159頁)、コンタクトレンズを処方する目的で検眼やテスト用レンズを着脱した場合(最決平成9・9・30刑集51巻8号671頁)、レーザー脱毛機器を操作して毛根部を破壊した場合(東京地判平成14・10・30判時1816号164頁)、救命救急センターの医師が、医師免許を有しない研修中の歯科医師に対して、気管の挿管・抜管や大腿静脈路の確保、カテーテル抜去などをさせた場合(札幌高判平成20・3・6裁判所ウェブサイト)があります。
 最近では、医師の資格のない臨床工学技士に対して、心臓カテーテルの位置を調整する「補助操作」を行わせたり(2019~2020年)、介護施設の施設長が、入所者へのワクチン接種にともなう問診や接種の可否を判断したり(2021年)、医師免許のない外国人が、同国人に二重まぶたの整形手術を施したり(2021年)、同じく無免許でヒアルロン酸やボトックス注射などをしたり(2023年)、エステ店の経営者や従業員が、女性客の皮膚に強い光を当てて脱毛をおこなったりした事件が報道されています(2023年)。

〈参考文献〉

松村明編『大辞林〔第4版〕』(2019年、三省堂)、大谷實『医療行為と法』(1980年、弘文堂)18頁以下、手嶋豊『医事法入門〔第3版〕』(2011年、有斐閣)35頁以下、甲斐克則編『医事法辞典』(2018年、信山社)10頁以下など。伊藤榮樹ほか編・注釈特別刑法(8)(1990年)56頁〔河村博〕、平野龍一ほか編・注解特別刑法(5)-1(第2版、1992年)41頁〔小松進〕、神馬幸一「入れ墨(タトゥー)の施術と医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為」令和元年度重要判例解説(2020年)154頁以下、甲斐克則「医師でない彫り師によるタトゥー施術行為と医師法17条にいう『医業』の内容となる医行為」令和2年度重要判例解説(2021年)130頁以下など。

刑罰法規の明確性と国民の予測可能性

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