法と日常の交差点:大正・昭和の法廷小説
弊社の顧問、佐久間修氏による「法と日常の交差点」は、法律の話をきっかけに、日々の出来事や物語のワンシーンを少し違った角度から見つめてみるコラムです。
厳密な解説だけではなく、エッセイのように気軽に読んでいただける内容もございますので、お楽しみいただければ幸いです。
今回は、大正・昭和の法廷小説についてご紹介します。
大正・昭和の法廷小説

★【写真・左】①『法廷遊戯』のカバーです。単行本を買って読みましたが、現物が見当たりません。【写真・中央】②『有罪、とAIは告げた』の単行本です。【写真・右】③私が学生時代に読んだ、菊池寛の『父帰る・恩讐の彼方に』(1967年、旺文社文庫)です。残念ながら「若杉裁判長」と「ある抗議書」は収録されていません。
「法廷小説」というジャンルがあります。以前に紹介したアガサ・クリスティーの『検察側の証人』もその一つですが、「法廷ミステリー」の領域まで広げると、多数の作品が出版されています。最近では、『法廷遊戯(2020年)』(五十嵐律人著、講談社文庫)や、『有罪、とAIは告げた(2024年)』(中山七里著、小学館)でしょうか。
そこで今回は、少し趣向を変えて、遠い昔の法廷小説を見てみましょう。菊池寛(きくち かん)は、大正から昭和初期に小説家・劇作家として活躍しました。1923年には、雑誌『文藝春秋』を創刊したほか、1935年に「芥川(龍之介)賞」と「直木(三十五)賞」を創設したことでも知られています。
有名な作品として、「屋上の狂人(1916年)」、「父帰る(1917年)」などの戯曲があり、小説では、「忠直卿行状記(1918年)」、「恩讐の彼方に(1919年)」が挙げられます。「恩讐の彼方に」は、アメリカ映画「ショーシャンクの空に」と同じく、犯人の贖罪がテーマになっています。また短編では、「若杉裁判長(1918年)」と「ある抗議書(1919年)」が、彼の刑罰観や法律家像を反映しており、興味深いところです。
さて、「若杉裁判長」では、温情判決で知られる裁判官が、ある週末、自宅に侵入した泥棒によって散々な目に遭います。そのせいか、週明けの法廷では、大方の予想に反して被告人に厳しい判決を下します。
かつて敬虔なクリスチャンであった若杉さんは、警察官の横暴を見聞したこともあり、犯罪者に同情的な判決を出すことで、いつしか「名裁判長」と呼ばれるようになりました。しかし、実際に窃盗犯と対峙することで(暴行や脅迫がないので、住居侵入窃盗です)、これまで裁判官として被告人を見るのと異なり、「生れて初めて、罪の及ぼす影響を、骨身に滲みるほど感じ」ることになりました。
「実際自分は本当に罪ということを正当に考えてきたであろうか。それは、あまりに罪を抽象的に考えてきたのではあるまいか。罪人の側からのみ、罪を考えていたのではあるまいか。自分の目の前に畏まっている被告が、いかにも大人しく神妙なのに馴れて、彼らが被害者に及ぼした恐ろしい悪勢力については、なんの考慮をも費やさなかったのではあるまいか」と思い返したのです。
なるほど、弁護人は被告人を守るために全力を尽くすのに対して、検察官は公益の代表者であり、被害者や遺族の声を代弁するわけではありません。また裁判官も、「遺族の感情に流されてはならない」といい、被害者の遺体を切り刻んでトイレに流した事件でも、犯行後の残酷さは斟酌しないとされています。そうだとしたら、だれが被害者遺族の苦痛や悲嘆を受け止めてくれるのでしょうか。およそ人情を解さないとしたら、AIによる裁判と変わりませんね。むしろ、「若杉裁判長」というタイトルには、主人公が「若過ぎる=思慮が足りない=未熟」の意味があるのでは…、と指摘した学生がいました(若い人の感性は鋭い!)。
また、「ある抗議書」は、犯罪被害者の遺族から司法大臣(現在の法務大臣)にあてた抗議書という形式になっています。たとえ死刑を宣告されるような極悪非道な犯人であっても、拘置所内では教誨師による救済があるのに反し、身内を殺されて苦しみ続ける遺族には、何も手当がなされないことに対する理不尽さや不合理を、切々と訴える内容になっています。
ここで紹介した「若杉裁判長」と「ある抗議書」は、いずれも短編で読みやすく、しかも、インターネット上の「青空文庫」により無料で読めますので、是非、ご一読ください。
「若杉裁判長」
「ある抗議書」

★この写真は、明治憲法下の法廷(復元)です。名古屋市の市政資料館(重要文化財)で見ることができます。
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